東京高等裁判所 平成10年(行ケ)27号 判決 1999年7月08日
原告
ルーク・ラメレン・ウント・クップルングスバウ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
代表者
A
訴訟代理人弁護士
加藤義明
同
清水三郎
同
ラインハルト・アインゼル
被告
特許庁長官B
指定代理人
C
同
D
同
E
同
F
主文
特許庁が平成7年審判第7432号事件について平成9年9月12日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 請求
主文と同旨の判決
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯等
原告は、昭和61年9月8日、名称を「回転衝撃を補償する装置」とする発明(以下、「本願発明」という。)につき、1985年9月7日、同年11月5日及び同年11月7日にドイツ連邦共和国においてした特許出願に基づく優先権を主張して特許出願(昭和61年特許願第209780号)をしたが、平成6年11月8日拒絶査定を受けたので、平成7年4月17日拒絶査定不服の審判を請求した。特許庁は、この請求を平成7年審判第7432号事件として審理した結果、平成9年9月12日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月29日原告に送達された。
2 本願発明の要旨
1 本願特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下「第1発明」という。)の要旨
内燃機関の回転衝撃を補償する装置であって、特に少なくとも作用的に互いに相対的に回動可能な2つの運動質量体間に配置された減衰装置を有しており、第1の運動質量体が内燃機関に、かつ第2の運動質量体が伝動装置の入力部分に結合されている形式のものにおいて、両方の運動質量体間に少なくとも3つの作用的に直列接続された減衰装置、すなわち回動角の制限された第1の滑りカップリング(14a)、弾性的なトーション減衰装置(13)及び第2の滑りカップリング(14)が設けられていることを特徴とする、回転衝撃を補償する装置。
2 本願特許請求の範囲第49項に記載された発明(以下「第2発明」という。)の要旨
内燃機関の回転衝撃を補償する装置であって、軸線方向の内側のピン(20)を備えていてクランク軸(5)に結合された第1の運動質量体(3)、及び第1の運動質量体(3)に対して同軸的に配置されかつ軸受(16)を介して第1の運動質量体に支承された第2の運動質量体(4)を有しており、両方の運動質量体(3、4)間に弾性的なトーション減衰装置(13)、滑りカップリング(14a)及び摩擦装置(64)を配置してあり、滑りカップリング(14a)が半径方向で前記トーション減衰装置(13)の内側にかつ該トーション減衰装置に対して直列に配置されていて、前記トーション減衰装置(13)の蓄力器(52)のための切欠き(51)を備えた中間プレート装置、皿ばね(58)並びに摩擦ライニング(59、60)を有している形式のものにおいて、中間プレート装置が唯一の中間プレート(48)を有しており、滑りカップリング(14a)が1つの摩擦ライニング(59)を前記中間プレート(48)の一方の側に配置しかつ別の摩擦ライニング(60)、プレート(55)並びに皿ばね(58)を前記中間プレート(48)の他方の側に配置して構成されていることを特徴とする、回転衝撃を補償する装置。
3 本願特許請求の範囲第54項に記載された発明(以下「第3発明」という。)の要旨
内燃機関の回転衝撃を補償する装置であって、分割されて互いに同軸的に回転可能に配置された2つの運動質量体(3、4)間に配置された摩擦装置(64)、弾性的なトーション減衰装置(13)、及び滑りカップリング装置(14+14a)を有している形式のものにおいて、トーション減衰装置(13)と摩擦装置(64)とが互いに並列的に作用するようになっており、滑りカップリング装置(14+14a)が第1及び第2の滑りカップリング(14,14a)から成っており、両方の滑りカップリングが互いに異なるトルク伝達力を有していて、周方向で所定の回動角度(73)に亙って互いに相対的に運動するようになっており、トーション減衰装置(13)、第1の滑りカップリング(14)及び第2の滑りカップリング(14a)が直列に接続されていることを特徴とする、回転衝撃を補償する装置。
4 本願特許請求の範囲第57項に記載された発明(以下「第4発明」という。)の要旨
内燃機関の回転衝撃を補償する装置であって、互いに同軸的に配置されて蓄力器(52)を介して互いに駆動連結された2つの運動質量体(3、4)を有しており、一方の運動質量体(3)が内燃機関に結合されており、他方の運動質量体(4)が駆動系に結合されている形式のものにおいて、蓄力器(52)の、一方の運動質量体(3)に配設された対向支承部が第1のプレート(45、46)に配置されており、第1のプレートが一方の運動質量体(3)に、相対的な回動の制限なしに力伝達可能に駆動結合されており、第1のプレート(45、46)と一方の運動質量体との間に伝達力の大きさが機関の最大のトルクよりも大きくなっており、蓄力器(52)の、他方の運動質量体(4)に配設された対向支承部が第2のプレート(48)に配置されており、第2のプレート(48)が他方の運動質量体(4)に力伝達可能に、しかし制限された範囲で運動可能に結合されており、第2のプレート(48)と第1のプレート(45、46)との間の伝達力よりも小さい値であることを特徴とする、回転衝撃を補償する装置。
3 審決の理由の要点
1 手続の経緯等
手続の経緯等は、前記1記載のとおりである。
2 当審の拒絶理由
当審において平成8年3月6日付けで通知した拒絶の理由は、次のとおりのものである。
1.(略)
2.本件出願の特許請求の範囲第1項(注・第1発明)、第49項(注・第2発明)、第54項(注・第3発明)、第57項(注・第4発明)に記載された4発明のいずれを特定発明としても、他の発明が特許法(昭和62年法律第27号による改正前のもの。以下、同じ。)38条ただし書に規定する要件を満たしているものとは認められない。
3 請求人(原告)の主張
これに対し、請求人は、平成8年9月26日付け意見書において「指摘の点を考慮して、同時提出の手続補正書により補正した。これにより、拒絶の理由は解消したものと思われる。」旨主張している。
4 審決の判断
上記拒絶の理由、特に2.で指摘した特許法38条ただし書の要件に基づく拒絶の理由が解消しているか否かを、第1発明ないし第4発明について検討する。
<1> 併合発明の要件
特定発明及び併合を意図する発明(以下「併合発明」という)の特許請求の範囲中には、特定発明及び併合発明に共通な構成に欠くことができない事項の主要部、すなわち特定発明及び併合発明に共通する「発明が解決しようとする問題点」に対応した共通する新規な構成に係る事項が存在しなければならない。そこで、各発明の主要部について検討する。
<2> 第1発明ないし第3発明の主要部の認定
「互いに回動可能な2つの運動質量体間に減衰装置を配置し、一方の運動質量体を内燃機関に、他方の運動質量体を伝動装置に結合させた形式の回転衝撃を補償する装置」という構成は、各発明に共通するものであるが、当該構成は従来周知であることから発明の主要部とは成り得ない。
したがって、第1発明の主要部は次のとおりのものと認められる。「両方の運動質量体間に少なくとも3つの作用的に直列接続された減衰装置、すなわち回動角の制限された第1の滑りカップリング(14a)、弾性的なトーション減衰装置(13)及び第2の滑りカップリング(14)が設けられている」
同様の理由により、第2発明の主要部は次のとおりのものと認められる。「両方の運動質量体(3,4)間に弾性的なトーション減衰装置(13)、滑りカップリング(14a)及び摩擦装置(64)を配置してあり、滑りカップリング(14a)が半径方向で前記トーション減衰装置(13)の内側にかつ該トーション減衰装置に対して直列に配置されていて、前記トーション減衰装置(13)の蓄力器(52)のための切欠き(51)を備えた中間プレート装置、皿ばね(58)並びに摩擦ライニング(59,60)を有している形式のものにおいて、中間プレート装置が唯一の中間プレート(48)を有しており、滑りカップリング(14a)が1つの摩擦ライニング(59)を前記中間プレート(48)の一方の側に配置しかつ別の摩擦ライニング(60)、プレート(55)並びに皿ばね(58)を前記中間プレート(48)の他方の側に配置して構成されている」
同様の理由により、第3発明の主要部は次のとおりのものと認められる。「摩擦装置(64)、弾性的なトーション減衰装置(13)、及び滑りカップリング装置(14+14a)を有している形式のものにおいて、トーション減衰装置(13)と摩擦装置(64)とが互いに並列的に作用するようになっており、滑りカップリング装置(14+14a)が第1及び第2のカップリング(14,14a)から成っており、両方の滑りカップリングが互いに異なるトルク伝達力を有していて、周方向で所定の回動角度(73)に亙って互いに相対的に運動するようになっており、トーション減衰装置(13)、第1の滑りカップリング(14)及び第2の滑りカップリング(14a)が直列に接続されている」
<3> 第4発明の主要部の認定
同様の理由により、第4発明の主要部は次のとおりのものと認められる。「蓄力器(52)の、一方の運動質量体(3)に配設された対向支承部が第1のプレート(45,46)に配置されており、第1のプレートが一方の運動質量体(3)に、相対的な回動の制限なしに力伝達可能に駆動結合されており、第1のプレート(45,46)と一方の運動質量体との間の伝達力の大きさが機関の最大トルクよりも大きくなっており、蓄力器(52)の、他方の運動質量体(4)に配設された対向支承部が第2のプレート(48)に配置されており、第2のプレート(48)が他方の運動質量体(4)に力伝達可能に、しかし制限された範囲で運動可能に結合されており、第2のプレート(48)と他方の運動質量体との間の伝達力の大きさが一方の運動質量体(3)と第1のプレート(45,46)との間の伝達力よりも小さい値である」
<4> 判断
ここで、第4発明を特定発明とすると、その主要部のうち「第1のプレート(45,46)」及び「蓄力器(52)」が、他のどの発明の主要部にも存在しないことから、他の発明を併合発明とすることはできない。一方、第4発明の主要部には、他の3つの発明の主要部のうち「弾性的なトーション減衰装置(13)」が含まれていないことから、第4発明を除く他のどの発明を特定発明としても第4発明を併合発明とすることはできない。したがって、いずれにしても、第4発明は、発明の構成に欠くことができない事項に関する要件を満たしていない。
5 結論
以上のとおりであるから、少なくとも、第4発明については、当審で通知した上記拒絶の理由に示した2.の点で、依然として不備といわざるを得ない。
したがって、本願は、特許法38条ただし書に規定する要件を満たしていない。
第3 原告主張の審決の取消事由
1 審決の認否
1 審決の理由の要点1(手続の経緯等)、2(当審の拒絶理由)、及び3(請求人の主張)は認める。
2 同4(審決の判断)のうち、<1>(併合発明の要件)、<2>(第1発明ないし第3発明の主要部の認定)は認める。<3>(第4発明の主要部の認定)は認める。ただし、第4発明の主要部は、審決認定のものにとどまるものではない。<4>(判断)は争う。
3 同5(結論)は争う。
2 取消事由
審決は、特許法38条ただし書に規定する要件の点についての判断を誤ったものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。
すなわち、審決は、「第4発明を特定発明とすると、その主要部のうち「第1のプレート(45,46)」及び「蓄力器(52)」が、他のどの発明の主要部にも存在しないことから、他の発明を併合することはできない。一方、第4発明の主要部には、他の3つの発明の主要部のうち「弾性的なトーション減衰装置(13)が含まれていないことから、第4発明を除く他のどの発明を特定発明としても第4発明を併合発明とすることはできない。したがって、いずれにしても、第4発明は、発明の構成に欠くことができない事項に関する要件を満たしていない。」と判断するが、誤りである。
1 第4発明の特許請求の範囲の記載のうち、「蓄力器(52)の、一方の運動質量体(3)に配設された対向支承部が第1のプレート(45,46)に配置されており、」は、弾性的なトーション減衰装置(13)の蓄力器(52)が、第1のプレート(45,46)で支承されており、この支承部が一方の運動質量体(3)に配置されている構成を示している。そして、第1のプレート(45,46)は、弾性的なトーション減衰装置(13)の入力部分である薄板プレート(45,46)に他ならないから、第4発明の上記特許請求の範囲の記載は、正に弾性的なトーション減衰装置(13)の構成を記述したものである。
また、第4発明の特許請求の範囲の記載のうち、「蓄力器(52)の、他方の運動質量体(4)に配設された対向支承部が第2のプレート(48)に配置されており、」は、弾性的なトーション減衰装置(13)の蓄力器(52)が、第2のプレート(48)で支承されており、この支承部が他方の運動質量体(4)に配置されている構成を示している。そして、第2のプレート(48)は中間プレート(48)であって、弾性的なトーション減衰装置(13)の出力部分であるから、第4発明の上記特許請求の範囲の記載も、弾性的なトーション減衰装置(13)の構成を記述している。
2<1> 構成要件の充足いかんの判断に関し、当該特許出願に係る発明の要旨を認定するに当たって、明細書の発明の詳細な説明の記載や図面を参酌することを一律に禁ずる趣旨ではなく、少なくとも特段の事情があれば、許容されるものと解される(最高裁判所平成3年3月8日第二小法廷判決民集45巻3号123頁参照)。
<2> 第4発明における蓄力器と第1ないし第3発明における弾性的なトーション減衰装置について、本願明細書にどのような記載があるかを検討してみるに、まず、第4発明における「蓄力器」の構成については、特許請求範囲に直接の記載は見られない。
しかし、第4発明の特許請求の範囲の記載においても、「蓄力器」には参照番号として「52」が付記されている。そして、「蓄力器(52)」は、本願明細書の発明の詳細な説明や図面中に多数援用されている。
そもそも、「蓄力器」なる用語は、一般的には、「力を蓄えることのできる器具又は部材」を意味するが、第4発明の発明の要旨の認定に当たって、「蓄力器」なる用語を、弾性的なトーション減衰装置から離れて、このような一般的な意味に解釈したのでは、第4発明は趣旨不明となり、その技術的意義の理解は不可能となる。したがって、第4発明の「蓄力器」なる用語の解釈に当たっては、参照番号であるとはいえ、付記された「52」をあえて無視してまで、一般的な意味にこれを解釈して、第4発明の趣旨が不明となってしまうような無理な解釈をすべきではない。
<3> そこで、第4発明の蓄力器(52)を、本願明細書の発明の詳細な説明や図面を参酌して解釈するに当たって、「弾性的なトーション減衰装置(13)」の具体的な構成に関する本願明細書(甲第2ないし第4号証)の記載をみるに、
a 弾性的なトーション減衰装置13の入力部分は、滑り摩擦カップリング14の出力部分33の円形リング状の内側の区分45b、46bから形成され、
b 弾性的なトーション減衰装置13は中間プレート48を有し、
c 弾性的なトーション減衰装置13の出力部分は中間プレート48から形成され、
d 蓄力器52は、区分45b、46b(すなわち、弾性的なトーション減衰装置13の入力部分)と中間プレート48(すなわち、弾性的なトーション減衰装置13の出力部分)との間に受容されており、
e 弾性的なトーション減衰装置13の少なくともいくつかのコイルばね52(蓄力器52)が圧縮される、
と記載されている(甲第2号証39頁6行ないし19行、42頁12行、13行、49頁7行、8行、甲第4号証4頁14行ないし19行、4頁28行、5頁8行ないし10行)。
<4> 以上のとおり、第4発明の蓄力器(52)は、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面を参照しても、弾性的なトーション減衰装置13とは無関係な、単なる「力を蓄えることのできる器具又は部材」と解すべきではないし、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面のどこにも、弾性的なトーション減衰装置13とは無関係な要素として記述されている個所は存在しないから、第4発明にいう蓄力器(52)は、弾性的なトーション減衰装置13の構成要素として、解釈すべきである。
<5> 上記に反する被告の主張は、第4発明における蓄力器(52)の意味を、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載内容に沿った技術的意味を有する概念として解釈していないものであり、失当である。
被告は、第4発明の特許請求の範囲にいう「蓄力器(52)の、一方の運動質量体(3)に配設された対向支承部が第1のプレート(45,46)に配置されており、」とは「一方の運動質量体に配設された蓄力器が第1のプレートに対向支承するように配置されており、」の意味と解することができること等を前提とする主張をする。
しかしながら、第4発明において、「蓄力器(52)の、一方の運動質量体(3)に配設された対向支承部が第1のプレート(45,46)に配置されており、」との構成に含まれる「蓄力器」と、「蓄力器(52)の、他方の運動質量体(4)に配設された対向支承部が第2のプレート(48)に配置されており、」との構成に含まれる「蓄力器」とを、別個のものと解釈すべき根拠はない。第4発明の特許請求の範囲(第57項)にも、両蓄力器が別個に存在することを示唆するような記載も一切ないし、参照番号として同一の番号52が付記されていることからも、蓄力器が別個に存在する構成でないことに疑問の余地はない。
また、被告のように、別個の2つの蓄力器の存在を想定した場合、両蓄力器間の接続又は結合の有無や態様が問題になるが、第4発明の特許請求の範囲には、このような両蓄力器間の接続又は結合に関する記載はなく、かかる点からも、被告の解釈は誤りである。
第4 原告の主張に対する被告の認否及び反論
1 認否
原告の主張は争う。
2 反論
1 第4発明の特許請求の範囲にいう「蓄力器(52)の、一方の運動質量体(3)に配設された対向支承部が第1のプレート(45,46)に配置されており、」とは、「一方の運動質量体に配設された蓄力器が第1のプレートに対向支承するように配置されており、」の意味と解することができ、第1実施例(第1図及び第2図の実施例)の構成の皿ばね34、薄板プレート45,46(別紙第1図参照)がそれぞれ第4発明の特許請求の範囲にいう一方の運動質量体(3)に配設された蓄力器(52)、第1のプレート(45,46)に相当し、第1実施例の構成における「一方の運動質量体3に配設された皿ばね34が、薄板プレート45,46に対向するように支承配置されて」いる構成は、第4発明の特許請求の範囲にいう「蓄力器(52)の、一方の運動質量体(3)に配設された対向支承部が第1のプレート(45,46)に配置されて」いる構成に相当すると解することができる。
また、第4発明の特許請求の範囲にいう「蓄力器(52)の、他方の運動質量体(4)に配設された対向支承部が第2のプレート(48)に配置されており、」とは、「他方の運動質量体に配設された蓄力器が第2のプレートに対向支承するように配置されており」の意味と解されることから、第1実施例の構成の皿ばね58、中間プレート48がそれぞれ第4発明の他方の運動質量体に配設された蓄力器、第2のプレートに相当し、第1実施例の構成における「他方の運動質量体4に配設された皿ばね58が、中間プレート48に対向支承するように配置されて」いる構成は、第4発明の特許請求の範囲にいう「蓄力器(52)の、他方の運動質量体(4)に配設された対向支承部が第2のプレート(48)に配置されて」いる構成に相当すると解することができる。
2<1> [15頁]第4発明の特許請求の範囲においては、弾性的なトーション減衰装置について記載されていないばかりか、蓄力器が弾性的なトーション減衰装置である蓄力器と記載されているわけでもない。
<2> しかも、蓄力器という用語は、力を蓄えることのできる器具又は部材と解することができるが、このような技術的意味を有する蓄力器は、本願と同じトルク伝達装置の技術分野において、乙第1号証(特開昭57-204321号公報)及び乙第2号証(特開昭61-10120号公報)の皿ばね状の蓄力部材や皿ばねからなる蓄力部材にみられるように、弾性的なトーション減衰装置とは別異の装置の構成要素としても用いられる。
<3> そうすると、第4発明の特許請求の範囲にいう蓄力器(52)は、第1発明ないし第3発明の主要部のうちの弾性的なトーション減衰装置であるとは限らず、少なくとも、弾性的なトーション減衰装置が第4発明の主要部を構成するものではない。
3 本願明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載を検討しても、上記の解釈に変わりはない。
<1> すなわち、本願明細書の第1実施例についての記載及び第1図によれば、本願明細書の第1実施例には、「内燃機関の回転衝撃を補償する装置であって、互いに同軸的に配置されて、
蓄力器を介して互いに駆動連結された2つの運動質量体を有しており、
一方の運動質量体が内燃機関に結合されており、他方の運動質量体が駆動系に結合されている形式のものにおいて、
一方の運動質量体3に配設された皿ばね34が、薄板プレート45,46に対向支承するように配置されており、
薄板プレート45,46が一方の運動質量体3に、相対的な回動の制限なしに力伝達可能に駆動結合されており、
薄板プレート45,46と一方の運動質量体との間の伝達力の大きさが機関の最大のトルクよりも大きくなっており、
他方の運動質量体4に配設された皿ばね58が、フランジ48に対向支承するように配置されており、
中間プレート48が他方の運動質量体4に力伝達可能に、しかし制限された範囲で運動可能に結合されており、
中間プレート48と他方の運動質量体との間の伝達力の大きさが一方の運動質量体3と薄板プレート45,46との間の伝達力よりも小さい値である、
回転衝撃を補償する装置」が記載されている。
<2> 第4発明の特許請求の範囲の記載を上記の第1実施例の構成と対比してみると、第4発明の「蓄力器(52)の、一方の運動質量体(3)に配設された対向支承部が第1のプレート(45,46)に配置されており、」とは、前記のように、「一方の運動質量体に配設された蓄力器が第1のプレートに対向支承するように配置されており」の意味と解することができること、第4発明において蓄力器そのものの構成に関して何ら限定がなされているものではないこと、及び本願と同じトルク伝達装置の技術分野において蓄力器が「皿ばね状の蓄力部材」や「皿ばねからなる蓄力部材」を示す用語として用いられていること(乙第1号証、乙第2号証参照)を考慮すると、第1実施例の構成の皿ばね34、薄板プレート45,46がそれぞれ第4発明の特許請求の範囲にいう一方の運動質量体(3)に配設された蓄力器(52)、第1のプレート(45,46)に相当し、第1実施例の構成における「一方の運動質量体3に配設された皿ばね34が、薄板プレート45,46に対向するように支承配置されて」いる構成は、第4発明の特許請求の範囲にいう「蓄力器(52)の、一方の運動質量体(3)に配設された対向支承部が第1のプレート(45,46)に配置されて」いる構成に相当すると解することができる。
また、第4発明の特許請求の範囲にいう「蓄力器(52)の、他方の運動質量体(4)に配設された対向支承部が第2のプレート(48)に配置されており、」とは、「他方の運動質量体に配設された蓄力器が第2のプレートに対向支承するように配置されており、」の意味と解されることから、第1実施例の構成の皿ばね58、中間プレート48がそれぞれ第4発明の特許請求の範囲にいう他方の運動質量体(4)に配設された蓄力器(52)、第2のプレート(48)に相当し、第1実施例の構成における「他方の運動質量体4に配設された皿ばね58が、中間プレート48に対向支承するように配置されて」いる構成は、第4発明の「蓄力器(52)の、他方の運動質量体(4)に配設された対向支承部が第2のプレート(48)に配置されて」いる構成に相当すると解することができる。
<3> したがって、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌しても、第4発明の特許請求の範囲にいう「蓄力器(52)」は、第1ないし第3発明における「トーション減衰装置(13)」とは別に、第1実施例、第2実施例(第3図の実施例)に開示されたような「皿ばね」をも含むものとしてとらえることができるものであるから、第4発明の特許請求の範囲にいう「蓄力器(52)」は、第1発明ないし第3発明における「トーション減衰装置(13)」の下位概念を示すものではなく、第1発明ないし第3発明に含まれない別の概念をも含むものである。
理由
1 併合発明の要件について
審決の理由の要点4(審決の判断)のうち、<1>(併合発明の要件)は、当事者間に争いがない。
2 第1発明ないし第3発明の主要部
審決の理由の要点4<2>(第1発明ないし第3発明の主要部の認定)も当事者間に争いがない。
3 第4発明の主要部
1 争いのない事実
審決の理由の要点4<3>(第4発明の主要部の認定)は、第4発明の主要部が上記の審決認定のものにとどまるものではないことを除き、当事者間に争いがない。
2 発明の詳細な説明等の参酌の必要性
第4発明の特許請求の範囲にいう「蓄力器(52)の、一方の運動質量体(3)に配設された対向支承部が第1のプレート(45,46)に配置されており、」につき、原告は、弾性的なトーション減衰装置(13)の蓄力器(52)が第1のプレート(45,46)で支承されており、この支承部が一方の運動質量体(3)に配置されている構成を示している旨主張し、被告は、一方の運動質量体(3)に配設された蓄力器(52)が第1のプレート(45,46)に対向支承するように配置されていることを意味すると主張し、第4発明の特許請求の範囲の記載のうち、「蓄力器(52)の、他方の運動質量体(4)に配設された対向支承部が第2のプレート(48)に配置されており、」の意味についても、原告被告間に上記と同様の争いがある。
上記「蓄力器(52)の、一方の運動質量体(3)に配設された対向支承部が第1のプレート(45,46)に配置されており、」及び「蓄力器(52)の、他方の運動質量体(4)に配設された対向支承部が第2のプレート(48)に配置されており、」の意味については、翻訳のためか(本願発明の発明者及び特許出願人(原告)がドイツ連邦共和国に住所を有する外国人及び外国法人であることは、甲第2号証及び弁論の全趣旨から明らかである。)こなれた日本語の表現となっておらず、一義的に理解し得るとは必ずしもいえないところがある。
すなわち、特許請求の範囲の上記記載文言からは、「対向支承部が、一方の運動質量体(3)に配設されるとともに、第1のプレート(45,46)に配置されていること」及び「対向支承部が、他方の運動質量体(4)に配設されるとともに、第2のプレート(48)に配置されていること」のように読めるものの、「蓄力器(52)の、」がどの文言にかかるのかは必ずしも明確ではなく、また、「一方の運動質量体(3)と第1のプレート(45,46)との関係」及び「他方の運動質量体(4)と第2のプレート(48)との関係」も必ずしも明確ではない。したがって、特許請求の範囲の記載のみからは、原告主張のように解することも可能であるが、被告主張のように解することもできないわけではないから、その意味を確定するために、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌する必要があるというべきである。
3 本願明細書の記載
甲第2ないし第4号証によれば、本願明細書には、[発明の解決しようとする問題点]、[問題点を解決するための手段]、[発明の利点]、[実施例]として、次のとおり記載され、添付の第1図及び第2図(別紙参照)には、上記記載と同旨の図示がされていることが認められる。
[発明が解決しようとする問題点]
「このような装置は伝達系の負荷の軽減並びに騒音発生及び走行快適性に関連した改善を可能にするが、多くの使用にとって満足する運転特性を内燃機関の回転数範囲全体にわたって維持するためには十分ではない。すなわち、公知の装置の大きな欠点は、すでに述べたように滑り摩擦カップリングが内燃機関によって生ぜしめられる定格トルクの上側に位置する著しく高いトルク変動に際してのみ始めて応働することにある。さらに、公知の装置においては内燃機関の低い回転数範囲でも滑り摩擦カップリングによって高いトルクが伝達され、その結果内燃機関の低い回転数範囲の小さなトルク変動が取除かれない。
本発明の課題は、冒頭に述べた装置を改良し、この装置が従来公知の装置に比べて、特に振動減衰容量に関連する改善された機能を有するようにすることである。さらに、装置が特に簡単かつ安価な形式で製作されたい。さらに、装置の構造が装置を形成する構成部材の申し分のない相対的なセンタリングを可能にし、ひいては不釣合の問題を避けたい。」(甲第2号証17頁2行ないし18頁3行)
[問題点を解決するための手段]
「1番目の本発明(注・第1発明)の手段では、両方の運動質量体間に少なくとも3つの作用的に直列接続された減衰装置、すなわち回動角の制限された第1の滑りカップリング、弾性的なトーション減衰装置及び第2の滑りカップリングが設けられており、2番目の本発明(注・第2発明)の手段では、中間プレート装置が唯一の中間プレートを有しており、滑りカップリングが1つの摩擦ライニングを前記中間プレートの一方の側に配置しかつ別の摩擦ライニング及びプレート並びに皿ばねを前記中間プレートの他方の側に配置して構成されており、3番目の本発明(注・第3発明)の手段では、トーション減衰装置と摩擦装置とが互いに並列的に作用するようになっており、滑りカップリング装置が第1及び第2の滑りカップリングから成っており、両方の滑りカップリングが互いに異なるトルク伝達力を有していて、周方向で所定の回動角度に亙って互いに相対的に運動するようになっており、トーション減衰装置、第1の滑りカップリング及び第2の滑りカップリングが直列に接続されており、さらに、4番目の本発明(注・第4発明)の手段では、蓄力器の、一方の運動質量体に配設された対向支承部が第1のプレートに配置されており、第1のプレートが一方の運動質量体に、相対的な回動の制限なしに力伝達可能に駆動結合されており、第1のプレートと一方の運動質量体との間の伝達力の大きさが機関の最大のトルクよりも大きくなっており、蓄力器の、他方の運動質量体に配設された対向支承部が第2のプレートに配置されており、第2のプレートが他方の運動質量体に力伝達可能に、しかし制限された範囲で運動可能に結合されており、第2のプレートと他方の運動質量体との間の伝達力の大きさが一方の運動質量体と第1のプレートとの間の伝達力よりも小さい値である。」(甲4号証3頁3行ないし25行)
「内燃機関若しくは駆動系の振動特性への適合並びに減衰装置に対する調節を行なった場合、回動角の制限された第1の滑りカップリング並びに回動角の制限されていない第2の滑りカップリングを弾性的なトーション減衰装置と組み合わせて使用することによって、振動振れの不当に高い振れのエネルギ崩壊に基づく抑制が可能である。
装置を駆動系若しくは内燃機関の振動特性に申し分なく適合させるために、有利には第1の滑りカップリングの滑りモーメントが第2の滑りカップリングの滑りモーメントよりも小さくなっている。
本発明に基づく装置においては、申し分のない機能並びに安価な構造を得るために、有利には回転弾性的なトーション減衰装置が作用的に直列に第1の滑りカップリングと第2の滑りカップリングとの間に配置されている。」(甲2号証19頁9行ないし20頁6行)
「さらに、装置の簡単かつ安価な構造を得るために、有利には回動角の制限されていない第2の滑りカップリングが両方の運動質量体に対して回動不能な円形リング状の2つの摩擦面を有しており、この摩擦面間に、対向摩擦面を保持する出力部分が半径方向に係合しかつ軸線方向で締め込まれていて、かつ同時に弾性的なトーション減衰装置の入力部分を形成しており、この入力部分が蓄力器の作用に抗してトーション減衰装置の出力部分に対して所定の限度内で回動可能であり、トーション減衰装置の出力部分が第1の滑りカップリングの入力部分を形成されており、第1の滑りカップリングの出力部分が別の運動質量体に保持されている。」(甲2号証23頁5行ないし18行)
[発明の利点]
「本発明に基づく装置においては、互いに相対的に運動可能、特に回動可能な構成部分の大部分が申し分なくセンタリング機能を有しており、このようなセンタリング機能は個々の減衰装置、すなわち回動角の制限された滑りカップリング、弾性的なトーション減衰装置及び回動角の制限されていない滑り摩擦カップリングに有利に作用する。装置の本発明に基づく構造によって、特に第1の滑りカップリングの構成部分が一方の運動質量体に対してセンタリングされ、第2の滑りカップリングの構成部分が他方の運動質量体に対してセンタリングされる。両方の運動質量体が互いに相対的に1つの支承部、例えばころがり軸受を介してセンタリングされることによって、両方の滑りカップリングの構成部分も互いに相対的にセンタリングされる。」(甲2号証31頁11行ないし32頁6行)
[実施例]
「第1図及び第2図(別紙参照)に示した回動衝撃を補償するための装置1ははずみ車2を有しており、はずみ車は2つの運動質量体3,4に分割されている。」(甲第2号証32頁8行ないし11行)
「運動質量体3と運動質量体4との間には弾性的なトーション減衰装置13並びに直列に接続された2つの滑りカップリング(図示の実施例では、摩擦式の滑りカップリング[以下、滑り摩擦カップリングと呼ぶ])14,14aが設けられている。滑り摩擦カップリング14,14aは、滑り摩擦カップリングによってそれぞれ伝達可能なトルクの越えられる際に両方の運動質量体3,4間の相対運動を可能にする。半径方向で弾性的なトーション減衰装置13の外側に配置された滑り摩擦カップリング14は両方の運動質量体3,4間の無制限の回動を可能にするのに対して、半径方向で弾性的なトーション減衰装置の内側に配置された滑り摩擦カップリング14aはもっぱら運動質量体3,4間の制限された回動を可能にする。」(甲第2号証33頁3行ないし16行、甲第4号証4頁1行ないし6行)
「滑り摩擦カップリング14は、互いに軸線方向の間隔をおいて位置し運動質量体3に対して回動不能な2つの摩擦面28,29を有しており、この摩擦面を介して内燃機関のトルクが滑り摩擦カップリング14に導かれる。」(甲第2号証35頁6行ないし10行)
「滑り摩擦カップリング14の出力部分33は、互いに回動不能に結合された2つの薄板状のプレート(以下、薄板プレートと呼ぶ)45,46から成っている。」(甲第2号証38頁6行ないし8行、甲第4号証4頁12行、13行)
「滑り摩擦カップリング14の出力部分33の円形リング状の内側の区分45b,46bは弾性的な減衰装置13の入力部分を形成している。トーション減衰装置13は出力部分として薄板プレート間に配置された別のプレート(以下、中間プレートと呼ぶ)48を有しており、該プレート、即ち中間プレート48は薄板プレート45,46の円形リング状の内側の区分45b,46b間の軸線方向の空間47を半径方向に延びている。薄板プレートの内側の区分45b,46b並びに中間プレート48の、薄板プレートの内側の区分45b,46b間に位置する区分には、コイルばね52の形の蓄力器を受容する切欠き49,50,51が形成されている。蓄力器52は中間プレート48と両方の薄板プレート45,46との間の相対的な回動に抗して作用する。」(甲第2号証39頁6行ないし19行、甲第4号証4頁14行ないし19行。甲第4号証4頁14行の「第8行」は「第9行」の誤記と認める。)
「半径方向でさらに内側に位置する滑り摩擦カップリング14a(これは作用的に運動質量体4と減衰装置13との間に配置されている)は、互いに軸線方向の間隔を置いて配置された2つのリング状の摩擦面53,54を有しており、この摩擦面は運動質量体4に対して回動不能であって、この運動質量体を介して、内燃機関によって生ぜしめられたトルクの少なくとも一部分を伝達可能である。」(甲第2号証40頁4行ないし12行)
4 判断
以上認定の本願明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載から理解し得る構成、作用等のほか、第4発明の特許請求の範囲の他の記載部分である「互いに同軸的に配置されて蓄力器(52)を介して互いに駆動連結された2つの運動質量体(3,4)」、「第1のプレートが一方の運動質量体(3)に、相対的な回動の制限なしに力伝達可能に駆動結合されており」、「第2のプレート(48)が他方の運動質量体(4)に、しかし制限された範囲で運動可能に結合されており」などの記載内容を参酌すれば、第4発明の特許請求の範囲にいう「蓄力器(52)の、一方の運動質量体(3)に配設された対向支承部が第1のプレート(45,46)に配置されており、」は、ほぼ原告主張のとおり、蓄力器(52)が第1のプレート(45,46)で支承されており、この支承部のある第1プレートが一方の運動質量体(3)に配設されていることを意味し、上記蓄力器(52)、第1のプレート(45,46)は、本願明細書の第1実施例(別紙第1図参照)における蓄力器(コイルばね)52、薄板プレート45,46にそれぞれ相当すると解すべきであり、同様に、第4発明の特許請求の範囲の記載にいう「蓄力器(52)の、他方の運動質量体(4)に配設された対向支承部が第2のプレート(48)に配置されており、」は、ほぼ原告主張のとおり、蓄力器(52)が第2のプレート(48)で支承されており、この支承部のある第2のプレートが他方の運動質量体(4)に配設されていることを意味し、上記蓄力器(52)、第2のプレート(48)は、本願明細書の第1実施例(別紙第1図参照)における蓄力器(コイルばね)52、中間プレート(プレート)48にそれぞれ相当すると解すべきであり、「蓄力器(52)」は、「弾性的なトーション減衰装置(13)」の構成要素とみることができる。
5 被告の主張に対する判断
被告は、第4発明の特許請求の範囲にいう蓄力器(52)、第1のプレート(45,46)及び第2のプレート(48)はそれぞれ第1実施例における皿ばね34及び皿ばね58、薄板プレート45,46及び中間プレート48にそれぞれ相当し、「蓄力器(52)」は、第1ないし第3発明における「弾性的なトーション減衰装置(13)」の下位概念を示すものではなく、弾性的なトーション減衰装置とは別に「皿ばね」を含むものとしてとらえることができる等と主張する。被告のこの主張は、翻訳のためか必ずしも正確な日本語の表現となっていない第4発明の特許請求範囲の記載から生じ得るいくつかの解釈の1つではあるが、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌した場合には、被告主張の構成では、これらの記載ないしこれらの記載から合理的に推認し得る相互の位置関係、作用等と相容れない不自然な部分があり、むしろ疑問を生じさせるものであって、前記4で認定、判断したところと対比しても到底採用し得るものではない。
この点につき若干補足説明をするならば、例えば前記3で認定したとおり、実施例1に関して「薄板プレートの内側の区分45b,46b並びに中間プレート48の、薄板プレートの内側の区分45b,46b間に位置する区分には、コイルばね52の形の蓄力器を受容する切欠き49,50,51が形成されている。蓄力器52は中間プレート48と両方の薄板プレート45,46との間の相対的な回動に抗して作用する。」との記載があるから、薄板プレートと中間プレートの間は、「コイルばね52の形の蓄力器が切欠き49,50,51に受容されること」によって結合されていると解されるところ、皿ばね34及び皿ばね58は、薄板プレートと中間プレートとの接続又は結合関係に寄与しておらず、被告主張のように、蓄力器を「コイルばね52の形の蓄力器」ではなく、「皿ばね34」及び「皿ばね58」と解することは不自然である。
また、本願明細書の図面第1図、第2図によれば、「皿ばね34」と「皿ばね58」は、別の部材であると認められるところ、第4発明の特許請求の範囲の記載では「蓄力器(52)」が別の部材からなることは何ら示唆されておらず、被告の主張でも共通の蓄力器であるべきところ、蓄力器が別の部材からなると解する結果となっており、不自然とういべきである。
したがって、被告の上記主張は理由がなく、採用することができない。
4 結論
以上によれば、被告主張の第4発明の主要部の解釈は誤りであり、その誤りが併合発明の可否についての審決の判断(前記審決の理由の要点4<4>)に影響を及ぼし、かつ、その余の特許要件について更に検討する必要があるものと認められるから、原告主張の取消事由は理由がある。
よって、原告の請求を認容することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成11年6月24日)
(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)
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